生きろ

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数あるクラシックの作品、そして演奏の中で、
ぼくにとって特別な1曲は、
女流チェリスト、ジャクリーヌ・デュプレが弾く、
ドヴォルザーク作曲のチェロ協奏曲だ。

はじめてこの演奏を聴いた時の衝撃は、
とにかくすさまじいものだった。

第一楽章の長いイントロが終わり、
デュプレのチェロが最初の音を発した瞬間、
思わずハッとして、
しばらくの間、
動くことができなかった。

ただのたとえ話だと思っていた、
《稲妻に打たれたような衝撃》を、
はじめて経験したのもこの時だ。

それから何度、
このCDを聴いたかわからないけど、
なんと今でも、
この冒頭の部分を聴く度に、
必ず稲妻に打たれているということに、
ぼくは毎回おどろいてしまう。

第三楽章冒頭のテーマなんて、
「チェロが叫んでるッ」としか言いようがなくて、
後にも先にも、
こんな演奏とであったことは一度もない。

すさまじい圧力とスピードで、
弓が弦をこすり、
楽器の胴全体が鳴り響き、
それがホールの隅々にまで広がっていくその演奏。
そして度々聴こえるデュプレの呼吸。
まさに楽器と奏者とが完全に一体となって、
とてつもない生命力にあふれまくり、
ぼくは完全に圧倒される。

まるで砂浜に立って、
目の前に広がる海と、
どこまでも続く空を目の当たりにした時のように、
自分という存在が、
どのくらいちいさいのかということを、
あらためて確認できる瞬間だ。

そうなんだよなぁ。
ぼくは気がつくと、
自分というもののちいささに、
あまりに無頓着になりながら、
毎日を過ごしている。

日ごろから、
気をつけているつもりなのに、
ほんのちょっとの過信や、
おごりや傲慢さから、
気づいた時には、
そうやって作り出してしまった自分と、
実際の自分との間で、
空回りしてしまうこともしょっちゅうだ。

デュプレの弾く、
ドヴォルザークを無性に聴きたくなるのは、
いつも決まって、
こういう状況に陥った時だ。


別海ライブを終え、
《ライブ@シアターサンモール》に向かっている今、
目の前に山積みの、
そして、次から次へと増えていく、
《やりたいこと》や《すべきこと》を前にして、
今の自分が出せるスピードがいかに遅く、
その力に限界があるのかということを、
ここ数日、
いやというほど思い知らされて、
不安はふくらみ、
自信はみるみるしぼんでいった。

そんな時にかぎって、
「これでもか」ってくらい勃発する、
実に様々なジャンル(?!)にわたるトラブルやアクシデント。
よくもまぁ、
この短期間に、
しかも思いもよらないようなところからも、
次から次へと降ってくるもんだなぁと、
最近は笑っちゃうくらいだ。

今までより、
広い会場でのライブだから、
動員だってかなり心配...。

あまりにもいろんなことが、
一気に押し寄せてきて、
まさにあっぷあっぷ。
いっぱいいっぱい。

そんな時だからこそ、
デュプレのドヴォルザークに会いにいきたくなる。

自分という存在のちいささを、
もう一度確認して、
そこからはじめていきたいと、
いや、そこからはじめなきゃいけないと、
あらためて強く思ったんだ。

でも逆に、
こういう時だからこそ、
《人の力》のありがたみも痛感する。

調子に乗ってる時には、
やすやすと見過ごしてしまいそうな、
言葉や行動が、
いちいちありがたくて、
一日何度も、
感謝の気持ちがこみ上げてくる。

どれだけの人のおかげで、
今、自分がここにいられるのかということが、
たまらないほどよくわかる。

今まで生返事でやり過ごしてきてしまったみなさん、
本当にごめんなさいッ!


今はとてもきっついけど、
たまらなくしあわせでもあり、
4月10日を迎えることが、
とてもこわくて不安なんだけど、
同時にたまらなくたのしみだ。

すべてがリアルで、
《ライブ感》に満ちた時間を、
今ぼくは過ごしている。

柄にもなく、
弱気になってしまうこともあるけれど、
きっとこれから生きていく上で、
今はとても必要で、
大切な瞬間なんだろうなって心から思う。


デュプレのチェロが歌う、
ドヴォルザークのメロディは、
ぼくの中に、
「生きろ」というエネルギーとなって響いてくる。
そしてこの曲が終わる時、
そこにはいつも、
希望を感じることができる。

まだ生きてるんだから、
生きられるんだから生きなくちゃ。


真夜中の部屋のスピーカーの音量を、
可能なかぎりいっぱいに上げて、
全身でこの響きを感じようと思う。

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このページは、Mプロが2005年3月29日 00:21に書いたブログ記事です。

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