追悼:高田渡さん

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高田渡さんが亡くなった。

ニュースを観ると、
「フォークソングシンガーの草分け」なんて書いてあるものが多い。
確かにそうなんだろうけど、
渡さんには、
《フォーク》と聴いてついついイメージしちゃうような、
狭くて陽当たりの悪い、
下宿にひかれた万年床の匂いはあまり感じない。

というか、
彼の場合は、
そういう匂いよりはるかに強い、
アルコール臭を感じてしまうからかもしれないけど。


はじめて渡さんと会ったのは、
もう10年くらい前になるのかな。
今はなき吉祥寺の空想料理店、
《Kuu-Kuu》で催された、
お店の開店一周年を祝うパーティーだった。

ここのオーナー南さんは、
音楽にもとても精通されていて、
パーティーでは、
常連客を前に、
おいしい料理やお酒とともに、
お店ともゆかりのある、
友部正人さんやコンポステラ、
そして渡さんが、
ライブを披露することになっていた。

南さんは当事ぼくが組んでいたユニット、
《MISTRAL》のことをとても気に入ってくださっていて、
ぼくらにも、
数曲歌うための時間を作ってくれていた。

まだライブハウスで歌いはじめたばかりだったぼくらにとって、
たくさんのお客さんだけでなく、
錚々たる先輩ミュージシャンを前に歌えるこの夜のパーティーに向けた準備には、
かなり気合が入っていた。

ぼくらの出番は、
もちろんトップだったので、
パーティーがはじまってすぐ、
楽器をケースから出し、
《戦闘準備》に入っていた。

司会者がぼくらを紹介しようとしていた時、
渡さんから「待った」がかかった。
「早く飲みたいから、先に歌わせて」

すでに別の店でも相当召し上がってから、
パーティーへとやってきたことが明白な、
この酔っ払いおやじの一言に、
ぼくらの出鼻は完全にくじかれた格好となった。

そんなこと、
まるっきりおかまいなしに、
ひょこひょことステージに登場した渡さんは、
ギターをかかえ、
ぼそぼそと、
でもとても安定した、
低い重心で歌いはじめた。

そしてその世界に、
ぼくは一瞬で撃ちのめされた。

とてもやさしい語り口なのに、
すさまじく説得力を持った言葉。
そして
ラグタイムのピアノのように、
ベースをキープしつつ、
とても華やかなアルペジオをからめて、
まるで笑っているように聴こえてくる、
彼が爪弾くギターには心が躍った。

そしてつい、
これから《晴れ舞台》だというのにもかかわらず、
思わずビールをあおり、
席から立ち上がり、
曲が終わる度に頭の上で両手を叩き、
大声で歓声を送っているぼくがいた。

いやぁ、興奮したなぁ。
あまりの盛り上りに、
渡さんはちょっと面食らったようにも見えたっけ。

歌い終わる度に微笑を浮かべ、
また次の曲のイントロを奏ではじめる渡さんだったけど、
確か3?4曲くらい歌ったところでさっさとステージを切り上げ、
《飲み》に入ってしまったと思う。


そんなわけで、
いきなり現実世界に引き戻されることになってしまったけど、
ぼくらの出番も無事終わり、
その後の盛り上りもすさまじい中、
パーティーは終演した。

パートナーのギタリスト、
杉山君といっしょにお店を後にして、
階段を上がって地上に出たところで、
ぼくらは泥酔している渡さんに呼び止められた。

「さっきあなた達がやってた曲、よかったですよ。
ちょっとギター貸してください」
ひとりでは、
立ってるのがやっとってくらい、
べろんべろんの渡さんにこう言われ、
ためらいながらおそるおそる、
ギターを渡す杉山君。

そんなことを気にとめる様子もなく、
ギターを抱え、
しゃがみこむ渡さん。

「さっきやってた曲で、
カントリーブルースっぽいのがあったでしょ?
あれはね、こんな感じで弾いた方がいいですよ。
えっと、
キーはなんでしたっけ?」
「Aです」
「あぁそう。Aね。
じゃこんな感じで」

あのとき渡さんが、
鼻歌まじりに弾いてくれたギターを、
ぼくは決して忘れない。


古い映画を観ていると、
どうしようもない飲んだくれおやじが、
楽器を手にした時だけすさまじい演奏をするなんてシーンがあるけど、
ぼくにとって渡さんのギターは、
まさにその世界を、
現実に体感させてくれるものだった。

そんなぼくの興奮など、
まるでおかまいなしで、
演奏をさっさと切り上げた渡さんは、
またふらふらと、どこかえ消えていった。


それから何度か、
渡さんのライブに遊びに行った。
一度彼の曲が、
シチューのコマーシャルに使われて、
毎日のように、
耳にする機会もあったけど、
そんなことになった時でも、
彼は終始一環して、
そのスタイルを変えてはいなかった。


もうひとつ、
彼の言葉で忘れられないものがある。

あるライブの最中、
それまで渡さんのサポートで、
ギターを弾いていたミュージシャンが、
一曲歌うことになった。

「ちょっと長い歌なんですけど聴いてください」
という彼に、
「ずっと「好きです」って歌ってるだけの歌だから、
短い内容の歌ですよ」と返した渡さん。
やっぱり単なる酔っ払いじゃなかったんだなと、
あらためて感じた強烈な言葉だった。


彼が亡くなったという記事を読んだのは、
16日のことだから、
もう荼毘に付された頃なのかなぁ。
きっとたくさんの人たちが、
お酒持参で弔問に訪れたんだろうなぁ。

渡さん、
本当にいろんなことを教えてくれて、
どうもありがとうございました。

あちらでも、
思う存分お酒を飲んで、
気が向いた時はぜひ、
ギター片手に歌ってくださいね。

心より、
ご冥福をお祈りします。?

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このページは、Mプロが2005年4月18日 18:33に書いたブログ記事です。

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